嬉しうて、そして… (文春文庫)
■2007年3月に79歳で世を去った作家・城山三郎の遺稿随筆集。経済小説を確立した人なので、経営者・財界指導者側の視点の持ち主かというとそれは違う。特に、政治家が自分の女性スキャンダル報道などを封じ込める目的で作られた《個人情報保護法》への舌鋒鋭い批判は誠に痛烈であり、肝の据わった作家の気骨を見る思いがする。『財界』元編集長・伊藤肇を追悼する文章も立派な内容だった。
粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)
新入社員のころ読んだ作品ですが十数年ぶりに読みました。
主人公は石田禮助。戦前、三井物産の社長を務め、78歳にして国鉄総裁に据えられた人物…
若い人にはイメージが湧かないと思いますが、昭和30年代の国鉄は「親方日の丸」の象徴的な組織で、職員のサボタージュあり、管理職の汚職あり、そして政治家からの圧力(利権)あり、と大変な状態でした。
そこに総裁として招かれた氏は、長い海外生活で培った合理的な考え方と明治の男らしいまっすぐな言動によって、周囲をハラハラさせながらも改革を進めていきます。
頑固ながら愛嬌のある人柄と、本人が総裁就任時に自身を評した言葉「粗にして野だが卑ではない」生き様が、城山氏の筆致で見事に、魅力的に、小気味よく描かれています。
当時の週刊誌の記事などを引用したりしていて評伝小説といえども軽いタッチで書かれたものなので、大変読みやすいです。
文学とは言いがたいですが、在野のビジネスマンを活き活きと描く城山氏らしい作品と思います。
鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫 し 2-1)
城山三郎が自身で調べ上げて記した、どこにもない史実のドキュメンタリー。
個人的には難解な部分が多く、とても短時間にさらっと読めるものではありませんでしたが、
時間をかけることでかなりはまり込んで読むことができました。
読後、奇しくもダグラス・グラマン事件の海部八郎元日商岩井副社長の言葉が思い出されました。
そして、正義の名の下に歪められて行く歴史の不条理に切なくなりました。
現代の豊かな日本社会は政治だけが作り上げてきたのではないのだということ。
これを知らずして現代の日本社会に何かを大声で語ることなど、
滑稽以外の何者でもないのかもしれません。
そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)
久しぶりに胸が熱くなった。
亡き妻との出会いから別れまでが、淡々と深い愛情で綴られる。
瞬く間にその優しさ・愛情に引き込まれ読みふけっていた。
巻末にある、次女が記した「父が遺してくれたもの」で、涙が溢れ出た。
著者の想いと、次女の想いが、見事にシンクロしたからだ。
読書後、個人的に、良い意味で妻・家族に優しくなっているように感じる。
逆境を生きる
現代のような混沌混迷の続く世の中だからこそ、本書の内容は体に染み入るように伝わってきます。今はモノ・金に溢れて反骨心がなくなっているように思う。だからこそ本書のようにしっかりした信念で生きていた偉人達に学びたいです。