王国〈その3〉ひみつの花園 (新潮文庫)
60年生きて来て、最も好きで、感動、共感した小説は「カラマーゾフの兄弟」ですが、イワンの「僕は神を認め、神の叡智と目的を認める。生命の根底に秩序と意味があることを信じ、永遠の調和を信じている。しかし、神が創ったこの世界を認めてはいない。謹んで入場券をお返しする」というコントラ(否定)の思考に共感してしまうと、どっぷりそれに浸って抜けることは困難になり、苦しい日々が続きました。そんな中、ばななさんの作品たちに出会い、そこにある言葉や情景を丁寧に味わってみると、ふわっと何センチか心がアップして、幸せに包まれることを知りました。ジャンプはできなくても、何センチかは確実に・・。そして「王国3」にたどりつきました。「カラマーゾフ」同様、線を引きたくなる言葉がたくさん散りばめられていて、”熊笹”には涙も流しました。が、今回は何センチかアップではなく、どーんと何かがおりてきて心の中にしっかり着地しました。特に最後の温泉の描写です。「高橋くんはこの1本の線を、自然が描いた究極の線をこわすことなく、描きたかっただけだったのだ。自分が溶けていきたかったのだ。」「透明になってすっと、大きなものの中に抱かれてただ呼吸していたい、溶けたいと。そして最終的にはそれはほとんど成功したのだろう」「どうして生涯をかけてそんなことがしたかったのか?それは彼が自意識から解き放たれて至福を味わいたかったからだ」・・これが王国、知能にわずらわされたイワンが入ることのできなかった世界・・・見事だと思いました。時々読み返したい本です。
ひそやかな花園
ページを開いたその瞬間から本を閉じられなかった。
幼少時代の夏にどこかの別荘地で集まった子供たち。
どんな関係なのか、どうして集まっているのかは親からは
なにも知らされず、でも子供たちはその夏の別荘地での
キャンプを心から楽しみにしていた。
第一章は1985年から始まる。視点はその子供の視点。
それぞれの子供がかわるがわる語る夏のキャンプの様子。
どの子のそれを読んでもなんだか懐かしく、情景が美しく
読んでいてとっても心地よかった。それでも何故どんな関係で
集まっているのか?その謎が第一段階として匂わせてあって
楽しんで読みながらも、どんな関係なの?どんな謎があるの?と
頭の中で推理しながら読み進めた。
キャンプはある夏から突然終わり、親たちとの会話ではタブーに。
それぞれの子供がだんだん成長していき1999年で第一章は終わる。
第二章は2008年から
大人になった当時の子供たちがどんな風に暮らしているか
各人の視点で書かれている。それぞれの子供が大人になった今も
あのキャンプはなんだったのか、日常の中ふと思い出して
気にかけている。そしてそれぞれがなんらかの形で繋がっていき
キャンプに集まった子供たちにある共通点があることに気づいていく。
共通点はなんだったのか?その謎説きが興味深く、どんどん
ページをめくっていった。個々人が接触しだすところが
かなり面白かった。
第三章は2009年
謎はとけて、キャンプで集まった理由がわかったものの
新たにどうしても解き明かしたい事実があり、協力したり
協力しなかったり、物語の核心にせまっていく。
それぞれの事情や悩みと本当に知りたい事は知ってしまって
良いのか?知らない方がいいのか?その部分の各人の心の
揺らぎがとてもうまく描写されていて、それぞれの人に感情移入を
しながら読んでしまう。
第四章はそれぞれが自分の過去の事情に折り合いをつけて
心を整理していく。角田さんの物語は後味の悪いものも多いので
今回はどんな風な結末にもっていくのだろうと、危惧しながら
読み進めたが、どの人も明日に向かって明るく歩んでいくような
終わり方だったので、すごく良かった。
プロローグとエピローグをさゆみというキャンプで集まった
当時の子供がまとめているが、文中どうしても好きになれなかった
彼女の考えがエピローグで明るい方へ導かれていて本当に
後味が良かった。
夢中で読んでしまったので、もう一度ゆっくりと最初から味わって
読みたいと思う。久しぶりに★5つ出せる本だった。
例えば子供がいても、いなくても、子供が一人でも二人でも、
どんな状況でも人は幸せでいられると思う。
それは気の持ちようであると思う。どの状況にも、その場合にしか
ない幸せって必ずある。だから子供がいるから幸せ、いないから
不幸せという考えの構図は間違っているって私はずっと思っていた。
それでも女性にとって、子供がいる、いないというのは、
重くのしかかる重圧かもしれない。
うまく説明出来ないその気持ちを角田さんはこの本を通して
100%伝えていると思った。どうであろうと「生きなくちゃ
いけない自分の人生があるってだけ」という文中の登場人物の
セリフが心にすごく響いた。
ひみつの花園 [DVD]
これまでビデオしか出ておらず、ずっとDVD化が待たれていた「ウォーターボーイズ」の矢口史靖監督の、劇場映画第2作目。
三度の飯より金が好き、という鈴木咲子はある日銀行強盗の人質として連れ去られ、犯人が全員事故で死亡する中、樹海の奥深くから一人生還する。盗まれた5億円は焼失したものとして扱われるが、その行方は咲子のみが知っていた。それを知った咲子は、5億円を手に入れるために必要な、ありとあらゆることを始める。樹海の探索に地質学の知識が必要とあれば勉強のため大学に入り、スキューバを始め、ロッククライミングを始め... 。
ハワイ国際映画祭で審査賞も受賞している本作は、もう本当に「笑え」ます。ヒロイン咲子のポジティブな?大暴走ぷりが本当にもう素敵ですし、そのすっとぼけたキャラクタもいいです。また、突然切り替わる「どこから見てもミニチュア」というチープな絵は、何度見ても笑えます。
あまりにも不純な目的のためにがむしゃらに突っ走る咲子ですが、そのがむしゃらさがあまりに突き抜けていて、本当に笑えると共に、観終わった後、ふと元気になっている自分に気付ける、そんな映画です。
今回はモノラル音声が新たにステレオ化されていると共に、新たに監督をはじめ、出演者などによる見ごたえ十分なインタビュー(ネタ元や裏話の披露なども興味深い)が収録されており、また、劇場公開時のパンフレットが縮小版ですがカラーで収録されているのも嬉しいところです。
疲れたときやちょっと元気のない時に観たくなる、そんな素敵な映画です。ええ、子供からお年寄りまで、どなたにでもお勧めできる大好きな作品です。
秘密の花園 [DVD]
脚本、音楽、映像、キャストのすべてにおいて、原作の美しさを見事に映像化した珠玉の逸品です。原作は、「小公子」や「小公女」で知られるバーネット女史で、いわゆる世界名作の一つであり、誰が呼んでも感動できる作品です。
通常、こういった作品の場合、某国に作らせると、ただのエンターテイメントにされてしまいがちですが、この作品の場合、アニエスカ・ホランドという女性監督ならではの繊細な演出の元、舞台も原作どおり、そして、原作の明るさも暗さも忠実に映しています。
秘密の花園は、うら寒い曇天ばかりがずっと続く長い冬、その下に広がる荒涼とした土地、一転してまるですべての花のつぼみがはじけたのかと思ってしまうようないきなりの春、というまさにイギリスの気候があってこそ成り立つ物語です。それは、主人公メアリの心そのものであり、自然の変化、つまり、殺伐とした冬から輝く春への変化は、メアリの心の変化そのものであるのです。
イギリスの自然の中撮影し、それに美しく優しい音楽を加え、原作にあまり手を加えることなく脚色することで、この作品はすばらしいものに仕上がっています。
そして、ケイト・メイバリー。彼女以外に誰がメアリを演じます? といえるくらいのはまり役。前半のすさんだ心も、後半の明るさもすべて表情で演じ切り、子役っぽいわざとらしい演技もなく、まさに彼女なくしてこの作品はできなかったでしょう。
『秘密の花園』ノート (岩波ブックレット)
50年前に読んだ記憶があるけどこんな意味があったなんて!『小公女』と同じに外国の夢のような話としてあらすじだけを読んでいたのね、親や家族・身近な人々との関係によってどう変化・成長するか、こんなふうに読み込むんだあーと驚き!もう一度きちんと読み直さなくちゃと思わせる、梨木さんの筆力に感心した。今、彼女の本に少し集中しています、入院中の知人にこの本を贈りました。