ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)
次々に現れる困難や疑問に懊悩するディスコの姿は、ミステリーや純文の狭間で懊悩している舞城自身に思えた。所々に自作のタイトルをちりばめる手法に(物語の中ではそれらタイトルが結構重要な機能を果たしている)、今作によって作家として一つの区切りのようなものを示したかったのかな、とも感じた。または、キャリアの総括、みたいな。読了してから色々考えてるけど、それは作品の内容にではなくて、あくまでも舞城王太郎という作家のスタンスに対して。読書をしてこんな気持になるのは初めて。
今までの舞城作品を期待するとちょっと「?」かも。舞城初体験者は絶対「×」だよ。
でも、確か去年の6月頃に一度今作の発売案内出てたよな〜(無料と思いきや有料の冊子、『波』の巻末にちーっこくだけど)。それをキャンセルしてまで書き下ろし加えるその姿勢が必死で本気で、良い感じ。下巻はまるまる書き下ろしだし。
下巻の章題は「方舟」。連載当時、舞城自身書き進める中で収拾がつかなくなってしまったんじゃないかな。ほんとスケールでかすぎだから。紙と文字で表すの不可能なくらいスケールでかい(実際やたら図説多い)。それを救おうとして、リスク背負ってでも書き下ろさなきゃいられなかったんだろう。妄想に過ぎませんが。あ、この話って大雑把に言って「救済」の話だよな……物語を作家が体現している!? 妄想に過ぎないけどそう考えるとやっぱ凄い作家で、その労力と腕力に星5つです。次作に心底期待大。
ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)
上中下巻と、長い長いこの物語をやっと読み終えた。初めて読む舞城王太郎の作品ということもあって、結構ついていけない所もあったし、理解がおぼつかないところもあったけど、ものすごく楽しめた一冊だった。
本格ミステリっぽい体裁だったり、時空SFのような舞台設定だったりと、読むのが大変だったけど、結局、この小説は、パロディっぽい装いをしながら、本当はハードボイルドミステリなんだと思いながら、最後のこの巻を読み進めていった。
子どもの誘拐、虐待、ギャングの抗争、届かない昔の女への思い...なんて、まさにレイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウ・シリーズから続く典型的なハードボイルドミステリの話じゃないか。20年前、読みふけっていたことを思い出してしまった。幼児虐待モノって言ったら、アンドリュー・ヴァックスのバーク・シリーズかな?ディスコ・ウェンズディが彼らの直系子孫に思えた。
こんな読み方したら、舞城王太郎ファンには怒られるかもしれないけど、ハードボイルドものとしてもとっても面白かった。
ディスコは卑しい世界を歩く高潔な探偵だ。
世界は密室でできている。 (講談社文庫)
人生の終わりの襞に隠された死を、始まりに据える元気いっぱいな小説。 様々な人間が死にまくる。 関係ある人ない人死にまくる。 死を乗り越える小説は数えきれない程あるけども、 彼岸の死を此岸に、此岸の生を彼岸に逆転させる小説はこれが初めてじゃないか? と思った。 積み重ねられた布団の上で、どこまでも生き続けようとするルンババ12にちょっと泣いたよ、おい。 土か煙か食い物であっさり死んだルンババ12にちょっと笑ったよ、おい。 でも、やっぱり、舞城はいいね。
煙か土か食い物 (講談社文庫)
スピード感、グルーブ感にあふれ、「文圧」と評されるのもうなずけます。
チープなのかゴージャスなのか良くわからないトリック、常軌を逸した感情の
爆発、ジャンクな言葉の選択、唐突な展開、とにかく未体験の感覚を味わえる
ことは間違いありませんが、是か非かはまた別問題です。
戸梶圭太に近いノリはありますがアクは強め。
楽しめましたが、私はちょっと疲れてしまいました。
煙か土か食い物 (講談社ノベルス)
10年以上ぶりにがつんと来た本。
ある種の人は心臓をわし掴みにされるような「切なさ」が最大の特徴。
よく言われている、暴力も、文体のスピード感も、ミステリ仕立ても、福井弁も、全て「愛」を、「切なさ」を語るための道具に見える。
(とはいえ、切っても切り離せないところが舞城なんだが)
舞城は、愛を、暴力で、文体で、ミステリで、福井弁で、語る。
とはいえ、途中の暴力描写はとても痛かったし、万人には進められないけど、私には大事な本になりました。