その映画に墓はない
映画は孤独だ。そう言った映画監督がいるが、映画批評もまた孤独な行為だと思う。この本の著者が試みているのは、難しい用語を並べて作品を分析することでもなければ、ファンが喜ぶエピソードを紹介することでもない。映画産業や映画ジャーナリズムからは遠く離れた場所でこつこつと映画館に通いながら、スクリーンに向き合い、自分の言葉で映画を写し取って行く。そうした積み重ねのようなものが、読む側にも伝わってくるのだ。その意味では、限りなく物語に近い映画批評と言えるかも知れない。取り上げられているのは、四人の個性的な映画人たちだ。虚飾を排して俳優としての松田優作を追い、金子正次の世界に対する再評価を求め、内田裕也を初めて本格的に論じるなど、どの章もそれぞれに興味深いもの!だ。中でも最後に置かれた北野武論は、この異色監督の孤独感を深々と描き出した力作だと思う。
座頭市(デジタルリマスター版) [DVD]
もう十数年も前の映画なのに今見ても衝撃的な作品です。
正直私は勝新さんの「座頭市」はこれしか見ていません。だからこのシリーズはうんぬんとは言えませんが、この作品にはしびれました。
今の日本映画では本当に少なくなった、強さと存在感を持った主人公。演じる勝新さんが凄すぎるのか、このあくの強い共演者たち(緒方拳、陣内孝則、内田裕也、樋口可南子、片岡鶴太郎、これまた豪華)をねじ伏せる存在感を持つ俳優はそうはいないでしょう。
ストーリーはいたってシンプル。宿場街の抗争に巻き込まれた座頭市。・・・・。シンプルすぎるだろ!!っと突っ込まれてもそうなのだからしょうがない。ただただ勝新さんの男ぶりと、脇役たちの悪人ぶりを堪能しましょう(本当にみんな極悪、笑)。
不条理な世界が延々と続いた後訪れる、最後の殺陣シーン!! そしてラストの緒方拳との一瞬で決まる一騎打ち(ある意味あっけないが、つわもの同士なので勝負は一瞬も納得)。この迫力を演出出来る方は今の日本映画界にはいないと思います。
黒澤明監督の時代劇が正統派なら、こちらはあくまで自己流の荒荒しい世界を描く勝新ワールド。こちらもまさに時代劇の帝王の貫禄がありますね。
時代劇はこの映画とともに死滅したと思っています。今作られているのはチャンバラアクション。それはそれで面白いのですが、こういった骨太の迫力ある時代劇を作れる人、出てこないかなあ。
DVD本編は当然のごとくニューマスターで高画質。音声はモノラルで残念なのですが、かえってこちらの音源のほうが迫力あるような気もします。
当時、殺陣シーンで事故があり、悪い話題も在りましたが、舞台裏が堪能できるメイキングは一見の価値ありですよ。
NIKKATSU COLLECTION 十階のモスキート [DVD]
粗筋を読んでしまい、ある程度の内容はしっていたけれど、凄い映画。
決して派手ではなくて、淡々としている日常の中に内在し、じりじりと膨らんでいく狂気。この描写が何よりも凄い。そしてクライマックスは圧巻の一言。
無表情であまり喋らない内田裕也がこれまたリアルに見える。要所要所でカメオ出演する俳優、タレントも多彩で、しかもかなり若いから新鮮。
個人的に物凄く鮮烈な印象を残したシーンが幾つかあって、この映画がデビュー作である崔洋一監督を改めて凄いと思った。
特典が予告編だけなので、2001年版のDVDの特典を付け加えてもらいたかった。
ロック誕生 THE MOVEMENT 70’S~ディレクターズ・カット [DVD]
個人的に、フラワー・トラヴェリン・バンドの「Make Up」の映像に期待していたんですが、
収録されていたのはYouTubeにて公開の某映像にスタジオ音源を被せただけのものでした。
また、その他の多くの演奏シーンの映像も既出のものばかりで、まったく肩すかしです。
70年代当時の日本のロックの映像が1つのアーカイヴとして集約されたことは意義深いとは思うし、
そうした資料的なものとしてはそれなりに良い作品かもしれません。
が、1つの映画作品として観た場合はちっとも面白くもないでしょう。
なにしろ、内田裕也さんや近田春夫さんといった人達へのインタビューの合間に、
昔の映像が時系列もばらばらにダラダラ挟まっているだけの薄っぺらな構成でして、
映画のはじまりと終わりを内田裕也さんへのインタビューで纏めて、
どうにか全体を締めているだけの映画ですから。
インタビューをもうちょっと幅広く、細かくやって、
当時のレコード会社のディレクターだとか、ロックから別の方向へと流れていった人達とか、
そういう人達の証言も取り込んでくれていたら、奥行きのある見応えのある映画になったのでは。
例えばその後のYMOのメンバーがいたエイプリル・フールの人達だとか、
モップスから名プロデューサーへ転身を遂げた星勝さんとか、
ヒーリング・ミュージックみたいなものをやるようになった喜多郎さんとか、
話を訊くべき人は、いっぱいいたでしょう?
これでは「ロック誕生」というよりは、「内田裕也誕生」ですよ。
内田裕也さん、大好きだからこれでもいいんだけど(笑)。