A Night at Birdland, Vol.1
アート・ブレイキーにとって、クリフォード・ブラウンにとって、そして何より、ハードバップにとって記念すべきアルバム。
このスーパーバンドはジャズメッセンジャーズの母胎となったことで知られている。MJQと並ぶジャズの伝道師として、数年後メッセンジャーズは世界に羽ばたいていくのだ。クリフォード・ブラウンの再来と言われたリー・モーガンを擁して。
ブラウンがその天才ぶりを遺憾なく発揮してジャズファンを驚かせたのもこのアルバム。短い生涯だったが、かれの演奏のベストはと問われたら間違いなくこれを推す。おそるべき集中力で内容の濃いソロを展開し、弛緩するところがない。
ルー・ドナルドソンのホットな演奏もすごい。のちのファンク時代の演奏とはちがい、ほとばしるようなスリリングなソロをとっている。それにしてもこんなテクニシャンだったとは。
ホレス・シルヴァーはファンクの元祖。当録音の前後にマイルズと入れたセッションでもそれはわかるが、このアルバムのシルヴァーは桁ちがい。こんなに疾走するシルヴァーが聴けるのも珍しいし…。
この録音を契機にジャズ界は一変していく。ハードバップの時代に突入するのだ。
Study in Brown
個人的には、ブラウン=ローチ双頭コンボの諸作と54年のバードランドのアート・ブレイキーとの共演盤を比較した場合、後者のライブが好きだ。これは内容云々というより、その記録から伝わってくる熱と臨場感、音の質のような漠然としたものでうまく説明ができない。もちろん音楽性やグループとしてのまとまりなどに関してはブラウン=ローチに軍配が上がることは否定しようがないであろうが。スタディ・イン・ブラウンはそんな中でもかなりできのいいアルバムである。「チェロキー」に始まり、「A列車で行こう」といったスタンダードをはじめとする名演オン・パレードである。特に「ジョージズ・ジレンマ」や「サンデュ」などは記憶に残る素晴らしい演奏である。ブラウンのトランペットは音色、アタック、フレージング、メロディーラインの構成など、どれをとっても完璧なもので、天才の名をほしいままにしている。アドリブに関していえば当時のマイルスがどう転んでも勝ち目はない。マイルスはブラウンという太陽のような資質を持った天才の存在で、月のようなマイナーで静かなジャズへ自閉するしかなかったのであろう。ただし僕は、両者の音楽家としての総合力においてマイルスが上回り、ブラウンはまだ、その素質を外に向かって開放しただけで、本格的な彼の音楽世界の構築する前に、この世を去ってしまったと思っている。このアルバムでも、様々な曲を見事に演じきっているが、絵画でいえば珠玉の小品を(それも文字通り習作として)残し、本格的な問題作、大作に至らぬままであったといえよう。アドリブは完璧であったが、開放系のブラウンの世界しか垣間見ることができないのだ。マイルスのように自閉=醸成にいたっていないのだ。それが贅沢な、ないものねだりと百も承知だが、素晴らしいアルバムだけにブラウン=ローチ・コーポレイテッドの成果を評価しつつも、その部分の苛立ちを余計に感じてしまう。