時速15キロの旅―もっとスローに!ヨーロッパ自転車道中記
南ドイツとオーストリアはザルツカンマーグートのよく整備された自転車道路をゆっくりたどる熟年夫婦の自転車旅。毎年1回ずつ3年にわたる経験。ずっと前にドイツをめぐった時に、バスの窓から見た親子連れのサイクリストが輝いて見え、うらやましかったが、今度は、この本のご夫婦がとてもうらやましく思えた。私も同世代だが、体力的に問題がなかったというところが最大の驚き。
風景は、ドイツもオーストリアも確かに美しいけれど、その半分は目新しさ。私は、風景は日本とて負けず劣らず美しいところが多い、と思う。しかし、日本と違うのは、とてつもなく良く整備された自転車専用道路、そしてホテルや電車や人々の、サイクリングを受け入れる素地。これらは、日本が背伸びしても届かない、ほとんど文化の違い。改めて驚かざるを得ない。
この本、ほとんど日誌。あったことを淡々と描く。一日の走行キロ数、見どころ、泊まったホテルの値段、展望台や教会など訪れた施設とその特徴、スーパーで買ったソーセージ、ドイツパン、ワインなどをパジャマ姿でくつろいで食す夕飯、・・・。風景に綺麗だと感激しても、どのように綺麗なのかはあまり具体的には描かない。何よりも経験と情報を伝えてくれる叙述。写真はない。ガイドブックの紹介も詳しい。これらを参考にみなさんも是非やってみて下さいと訴えていて、結構その気にさせられる。
江戸をんなの春画本-艶と笑の夫婦指南 (平凡社新書)
そもそも、
女性も春画を見て、楽しんでいた、
それがよくわかる本だ。
とりあげられている図版は、
月岡雪鼎のものだが、
これがなんともいい。
とくに、
カラ―肉筆画「四季画巻」の、
女が、春、夏、秋、冬と、
徐々に歳をとっていき、
それとともに大胆になるのは、
著者に指摘されて、わかった。
過激な図版もあるが、
なかなか和める。
早春譜
2曲目「ビアンカの奇跡」についてのみ述べる。
なんか変な歌である(悪い意味ではない)。この歌詞、私にはどうしても「なんだかんだいっても人は結局外見の美しさに惹かれるんだよなあ。しかもしばしばそれは衣装の美しさなんていう表面的でいくらでも取り繕えるものだったりするよなあ。人の心なんて安易なものだよなあ」という主張を反語的に表現したもの、としか聴こえない。でもまさかそれが武田鉄矢の意図じゃないよねえ。
小説日本婦道記 (新潮文庫)
題名がすごい、封建的である。よく読んでみなければ、「何じゃこれワー」とのたうつ現代の婦女子も多かろう。巻末の解説によれば、「女ばっかり不幸になる/犠牲になる」との批判が多かった作品であるという。しかしながら、しっかりわきまえた現代人なら、この小説を「日本女性かくあるべし」などと、読めるはずもない。実は周五郎の一つの隠れテーマである「人間他人をどこまで赦せるか、信頼できるか」を表現するのにたまたま、女性が主人公であったほうが収まりがいい、伝わりやすい、それくらいなもので、題名から連想される教導的なものではけっしてない。むしろ、周五郎の持つ現代性というか、女性への尊敬の念を強く感じさせる作品と思うがどうであろう。くれぐれも女性の理想像として読まないでほしい。それはつまらない読み方ではないか。
ふたりの5つの分かれ路 [DVD]
ジルとマリオン。2人の出会いから離婚にいたるまでのの5つのエピソードを、時系列に遡った実験的な作品。オゾンは2人の離婚の原因を探る一つのミステリーとして提示したかったようだが、はたしてその試みが成功したかどうかは疑問である。何気ない2人の仕草や会話が崩壊を予感させるある愛の軌跡を描いた映像はオゾンらしい倦怠をたたえており、エピソードとエピソードをつなぐヨーロッパPOPSも音楽センスを感じるキッチュな選曲だ。
そのまま時系列に並べたら面白くもなんともない男女の別れ話を、逆さまに並べ直したアイデアは買うが、もうひとヒネリがほしかったというのが正直な感想だ。『スイミング・プール』で観客に見せてくれた見事な<ダマシ>を期待していただけに、本作品のあまりのもあっけないラストシーンには逆に騙された感じがしたくらいだ。
ホモの兄ちゃんお相手が実はジル(だんな)の昔の恋人だったとか、ニコラが別の男の子供だったり、マリオン(奥さん)の母親が育児恐怖症だったりというオチは一切存在しない。あまりにも洗練されすぎたストーリーは、濃ーいのが好きな田舎者の自分にとっては、なんとも物足りない味付けだった。