日常ミステリの最高傑作のシリーズ第一作おすすめ度
★★★★★
北村薫の、この「円紫師匠とわたし」のシリーズは人が死なないミステリながら、謎解きの本格的な面白さと主人公が徐々に成長していく青春小説としても非常に完成度の高いシリーズ作品で、この後に続く「夜の蝉」や「秋の花」と同様に主人公の<わたし>が成長していく姿が連作短編集という形で描かれています。
シリーズ第一作の本書では、主人公は大学の一年生。
友達と楽しく学園生活を送る女子大生ですが、どちらかといえばわりと地味目、メイクもあまりしない、落語と読書が大好きな女の子です。こう書くと、魅力的でないように聞こえますが、実際には優しいし地に足がついているしきちんと家のこともするしといったある意味文系男子の理想的な女の子です。それだからこそ、ときに批評的に「人間っぽくない」なんて書かれたりもしますが、彼女が日常の謎を謎解きのお師匠さんになる落語家の「円紫」師匠と話しているのを聞くと全然そんなことはなく、人間の暖かいところも素晴らしいところも底意地の悪いところもしっかりと理解できる、ある意味、年齢以上に人をじっと見ている人間だということがわかります。
そして、その視線はあくまで優しくて柔らかくて、それだからファンは何度もこの本を読み返すのだと思います。
とはいえ、作中では主人公はまだ大学の一年生ということで、行動範囲も狭く、出会う謎も身近なものが多いです。派手な事件も、複雑な人間関係もそうありません。が、逆にそれだからこそ、そんな彼女が日常でであう小さな謎から大きな見事な解決が提示されるカタルシスは他の本格ミステリに勝るとも劣らないものがあります。むしろ、日常のちょっとした謎や、不可解ないたずらのような事件から、人間の本性が見えてくるような気にさえなって、人が死なない普通の人のミステリをもっと読みたいという気にさせます。
短編連作集という形式なので、電車通勤の合間やちよっとした時間に一遍ずつ読めます。
猟期殺人やシリアルキラーや異常者が大量に出てくるミステリに疲れたら、ほっとひといきこういうのもいいんではないでしょうか。かなりおすすめの一冊です。
新鮮な推理小説おすすめ度
★★★★☆
殺人事件が起きない推理小説です。本格推理にありがちな、エキセントリックな
味を排除し、日常生活にありがちな些細な疑問から、そこに潜む人間心理を推察するのがこの小説の醍醐味、とでも言うのでしょうか。
本書に収録されている短編の『砂糖合戦』や『赤頭巾』などに、その醍醐味が顕著に
表れているような気がします。人がどんどん殺されていく小説よりも、この作品で
書かれる、日常生活の歪みから来る「些細な悪意」の方がよっぽど怖いと感じてしま
うのは私だけでしょうか。
そういえば、作者の北村薫氏は元高校教師の男性ですが、『空飛ぶ馬』発表当時は
覆面作家で、職業はおろか性別すら明らかになっていなかったそうです。
そんなわけで、読者の多くは作者を若い女性と思っていたとか。でも、確かにこの
『空飛ぶ馬』を読むと、そう思うのも無理は無いかな、と思えるほど女性キャラの
描写が瑞々しかったりします。
出来は非常に良いです。
おすすめ度 ★★★★★
非常に素晴らしい一品だと思います
。これは買わねばならないでしょう!
感動やドキドキ感を手元に置いて、私同様に何時でも手に取って思い返して頂きたいと願います。