若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)
作家が創作者の視点から作家を読み解く講義形式の本。題材は、吉行淳之介、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三、丸谷才一、長谷川四郎と、いわゆる「第三の新人」と呼ばれる作家群の短編小説六編。どうして、「第三の新人」が選ばれたかということは、前書きに書いてある。自我(エゴ)と自己(セルフ)の関係を探るというのが、著者が一貫して採用した視点。語り口は優しく明快で、それでいて、視点は分析的で鋭い。文学の知識をそれほど知らなくても、スラスラ理解できるのがとても嬉しい。あとがきには、テキストとしての小説を読んで行く上での春樹流三つのアドヴァイスも載っている。春樹ファンのみならず、創作に関心ある人全ての必読書であろう。
女ぎらい――ニッポンのミソジニー
ニッポンで、女に生まれて
解決のできない生きにくさ、しんどさ。
どんなに優秀でも、性格が良くても、スポーツができても、
結局は「容姿、若さ」という記号でのみ評価が下される
残酷さ。
東電OLの事件が起こったときは、
いろいろな記事をむさぼるように読みました。
私は彼女のように、優秀ではないけれど、
スゴク、努力してるのに
( 仕事ばかりでなく、気配りをし、
おしゃれに気を遣い・・・)
努力しても努力しても埋められない何かがあり
ほんとにしんどくて。
なぜこんなにしんどいのか?
すべて自分の神経質な性格のせいなのか?
上野先生の著書は、私にとって
救いの一つでした。
そして、今回の「女ぎらい」は
久々の 直球!!!
こんなニッポンに、上野先生がいてくれて、良かったです。
また、書物の持つ、すごいパワーに、あらためて驚かされました。
フェミニズムとか、難しいことを
私は実はよく理解してなかったり
しますが(笑)個人的には超・おススメです!
男社会で働くすべての悩める女性は(働いてなくても)
食わず嫌いせずに読んでみるといいと思います。
大ストライクだったりしますから。
暗室 (講談社文芸文庫)
吉行淳之介の代表的作品。この作品で氏は谷崎潤一郎賞を受賞しており、文学的にも世間的にも広く認められている作品といえる。評論家、福田和也は著書の中で他の第三の新人らの作品とこの作品をあわせて「必読」と評価していた。鮮やかな描写の多い内容は確かに素晴らしい内容だと思う。
作品は著者の分身とも考えられる四十代の(さほど売れていない?)作家、中田の性的な交流や日常を描いた物。屋根裏に暮らす知恵遅れの兄弟、大量のメダカの死体、飛行機の上から怪物の様に見えた島、青い魚が描かれたマッチ……など鮮烈で細やかな描写が多く、読んでいて不思議な気分に浸れる。それらの描写も全く押しつけがましいところが無く、気持ちのいい作品だと思う。おそらく突飛な設定を除いて実際の経験を元にしているのだろうが、エッセイの名手と言われるだけあって、作家生活の描き方も全く退屈させられず、文学的価値が高いと評される訳が何となく分かるような気もする。
ただ、中盤を超えた辺りからほとんどがどろどろとした女性との付き合いばかりになるので少し退屈だった。性交の描写もだんだんと生々しくなり、読んでいて恥ずかしくなるような部分もあって、そういった部分では本当に好き嫌いが分かれてくると思う。主人公の元を離れていった登場人物達もその後どうなったかがあまり書かれていなかったのも残念だった。
全体的には非常に完成度の高い作品だと思うが、人によっては終盤読むのが少し大変な箇所もあると思う。